現役スポーツ選手やスポーツ愛好家の方々のスポーツ活動中に生じる四肢および体幹(つまり、首から足先まで)の運動器(靭帯、軟骨、筋肉、腱、骨などの組織)の“外傷=けが"、そして“障害=使いすぎ、オーバーユース"を中心に、適切な治療を心がけています。
使いすぎ(オーバーユース)に対しては、ストレッチングやアイシングなどの自己管理及び再発防止についてしっかりと指導を行います(日頃のケア、対症療法、保存療法)。
一方で、保存療法で十分な回復が見られない場合や、“けが"に対しては、関節鏡を用いた低侵襲で正確な手術療法を行います。
膝靱帯損傷(前十字靱帯損傷、後十字靱帯損傷、内側側副靱帯損傷、外側側副靱帯損傷)、半月板損傷、軟骨損傷(外傷性、離断性骨軟骨炎など)、膝蓋骨脱臼、二分膝蓋骨、ジャンパー膝、オスグッド病、鵞足炎、大腿骨顆部骨壊死(特発性、二次性)、変形性膝関節症、骨折後の変形治癒、など
内・外側側副靱帯損傷、距骨軟骨損傷(離断性骨軟骨炎)、有痛性三角骨、有痛性外脛骨、アキレス腱炎・断裂、骨端症(シーバー病)、など
野球肘、投球障害肩、テニス肘、腰椎分離症(成長期)、スポーツに伴う腰痛、オーバーユース(使いすぎ)、疲労骨折、シンスプリント、肉離れ、腱炎、など
膝前十字靭帯(Anterior cruciate ligament; ACL)は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)を結び、脛骨が大腿骨に対して過度に前方へ移動するのを制御している靭帯です。ACLが損傷すると脛骨の前方動揺性(ぐらつき、膝崩れ)が出現します。
損傷直後は急激な膝の痛みや腫れが起こります。急性期を経過しても脛骨の前方動揺性が生じるため、自覚的な膝不安定感が残ります。また、不安定性による膝崩れ現象を認めるケースも珍しくありません。一度損傷したACLが自然治癒することはほとんど無く、未治療のまま前方動揺性を放置すると、関節内の軟骨・半月板など膝の健康に欠かせない組織を2次的に損傷することとなります。健常な膝と比較して早期に「膝関節症(他項参照)」へと進行する可能性があります。
基本的には、手術治療を要します。患者さん自身の膝周囲から移植用の腱を採取し、損傷したACLを作り直す(再建する)手術を行っています。再建に際しては一般的に、骨付き膝蓋腱(Bone patellar tendon bone graft; BPTB graft)またはハムストリング腱(Semitendinosus tendon graft; ST graft)を移植腱として使用し、患者さんの年齢や活動性、スポーツ種目等を総合的に考慮していずれかを採取します。
手術は関節鏡視下に行うため、膝関節を大きく切開する必要はありません。当科の手術では、より生理的な(正常に近い)再建ACLの実現を目指すために、本来のACLの走行に沿った解剖学的ACL再建術を行っています。大腿骨と脛骨の解剖学的ACL付着部に骨孔(トンネル)を作製し、採取した移植腱を加工して骨孔に通します。その後、金属製のインプラントで移植腱を固定します。これにより、十分な前方制動とそれに伴う膝関節症予防効果を獲得可能となります。手術後は当院リハビリテーション部と連携を維持し、術後2-4週の入院リハビリテーションの後、外来リハビリテーションを継続します。アスリートにおける競技復帰は術後7-9か月を目標としています。当科では一般の患者さんから学生アスリート、ひいてはトップレベルのプロスポーツ選手まで、幅広い層のACL損傷患者さんに対し手術治療の実績があります。
膝関節の内側と外側にある“C"の字をした組織で、衝撃吸収や荷重分散機能(いわゆる膝のクッション機能)と、膝の安定性にも寄与しています。膝の軟骨を守る上で重要な役割を担っていると考えています。
スポーツによる怪我のほか、繰り返す屈伸動作(正座も含めて)や、年齢とともに傷んでくる(変性)場合があり、それぞれの病態や損傷の形態に応じた治療法を選択する必要があります。
また、円板状半月板という病態もあります。日本人を含むアジア系の民族で多いとされており、通常のC型とは異なり、円板状の形態をしています。スポーツでの怪我だけでなく、日常生活動作だけでも傷が入りやすいと言われており、MRI検査で初めて気づかれることが多いです。
主には、痛みやひっかかり感、可動域制限が多いですが、中には損傷した半月板が関節内でずれてはさまりこんでしまうと(ロッキング症状)、膝の曲げ伸ばしが不能となり、身動きがとれなくなることもあります。
一定の決まった治療方法はありませんが、それぞれの病態やスポーツ活動、社会的背景を考慮し、方針を検討します。基本的には、変形性関節症の発症予防や進行を遅らせるために、クッション機能を有する半月板を温存することを目標にしています。
損傷範囲が小さく、症状も軽微な場合には痛み止めや湿布を用いた対症療法や、リハビリを含めた保存療法(四頭筋訓練や可動域訓練)を行います。加齢に伴う変性断裂の場合には、断裂を修復できないことが多いため、保存療法がメインとなります。
関節鏡を用いた手術を行っています。手術方法としては、断裂部を修復する縫合術と、断裂部を切除する部分切除術があります。半月板機能温存のため、可能な範囲で縫合術を目指していますが、損傷形態によっては縫合術が困難で部分切除術となることがあります。
縫合術を行う場合、専用の針と糸によって断裂部を縫合しますが、損傷部位によって関節の中から外へ針を通して縫合したり、関節の中だけで縫合する場合があります。
縫合術を行っても、すぐに修復されるわけではなく、断裂部が安定するまでは時間を要します。靭帯再建術と同様に、2週間の装具固定と入院でのリハビリ、その後は外来リハビリに移行し、段階的に筋力訓練等を進めます。およそ術後半年以降でのスポーツ復帰を目指し、外来での経過観察を継続します。
骨の関節表面を覆う組織で、膝の場合、大腿骨、脛骨、膝蓋骨(お皿の骨)に存在し、膝に加わる衝撃の吸収や関節のスムーズな動き(潤滑作用)を助けています。軟骨は一度傷がつくと正常には再生せず、放置することで損傷範囲は広がっていき、最終的には変形性膝関節症となります。
軟骨損傷にはスポーツ外傷などの急性発症のものと加齢などで徐々に摩耗していく慢性発症(変性)のものがあります。
症状としては、関節痛、腫脹(膝に水がたまる)が挙げられますが、これらの症状は軟骨損傷に特有のものではなく膝関節の他の損傷でも起こり得るため、これらの症状のみで軟骨損傷とは診断はできないため、MRI検査が必要となります。
症状が軽度の場合、保存療法が選択されます。治療には局所の安静、運動制限、消炎鎮痛剤の内服等が選択されます。
これらの治療で効果が認められない場合、手術療法が選択されます。
軟骨欠損部位に骨髄まで至る小さな穴をあけ、骨髄からの出血を促します。これにより欠損部の軟骨修復を期待します。ただしこの場合の軟骨は正常軟骨とは異なる軟骨(線維軟骨)が形成されます。
関節内の非荷重部より正常な骨軟骨柱をくり抜き、それを欠損部に移植します。その際に欠損部にも同様の径の穴を開けておきます。正常軟骨を移植するため、正常な修復が望める一方で、採取に限りがあるなどの問題点もあります。
2回の手術が必要となります。1回目に関節内の非荷重部より正常軟骨組織を採取し、採取した細胞を一度体外で培養し増殖させた後、細胞をゲルに包埋し、2回目の手術で関節を切開して欠損部に移植する方法です。
自家培養軟骨細胞移植術(関節鏡を使用した方法)や、他家滑膜由来組織移植など将来の治療につながる臨床研究を行っています。十分にその適応を検討し、治療を進めます。
膝蓋骨(いわゆる、お皿)が大腿骨の外側へはずれる(脱臼する)疾患です。
いくつかの脱臼しやすい原因(骨の形状や関節のやわらかさなど)は知られていますが、主に図に示す内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)の断裂に伴い、膝蓋骨が外側へ脱臼します。膝の不安定感や痛みが症状として挙げられ、スポーツ活動だけでなく日常生活動作にも支障をきたすことがあります。
基本的には、装具を用いた保存療法を行います。ただし、再発するリスクが3~5割程度と言われており、再発する場合には保存療法だけでは対応が困難となります。
患者さん自身の膝から移植用のハムストリング腱を採取し、損傷したMPFLを作り直す(再建する)手術を行っています。前述のACL再建術と同様に、より生理的な再建術を目指し、大腿骨と膝蓋骨のMPFL付着部に骨孔(トンネル)を作製し、採取した移植腱を加工して骨孔に通します。その後、金属製のインプラントで移植腱を固定します。
これにより、十分な制動が獲得されます。前十字靭帯再建術と同様に、靭帯が成熟するまでは時間を要するため、リハビリを段階的に進めます。
関節軟骨がすり減り、関節が変形し、多くはO脚を呈する疾患です。加齢以外にも、骨折や靭帯・半月板損傷が原因になることがあります。
高位脛骨骨切り術の適応となるのは、初期~進行期の変形性膝関節症であり、膝の曲げ伸ばしにほとんど制限のない場合に限られます。末期の変形性関節症になると、骨切り術では対応が困難となり、人工膝関節全置換術の適応となります。
大腿骨の内側に荷重のストレスが集中することによって、微小な骨折が生じ、強い痛みを生じる疾患です。主に、内側半月板の損傷(変性断裂)に伴うことが多く、変形性膝関節症に進行することがあります。
いずれの疾患も、膝関節痛が主な症状ですが、痛みにより歩行や階段の上り下りに支障がでることが多く、日常生活動作を妨げる大きな要因の一つとなっています。
基本的には保存療法が第一となります。痛み止めや湿布、関節注射、運動療法(ストレッチや筋力訓練)などを行います。保存療法を3~6カ月継続しても痛みが改善しない場合には、手術療法を検討します。
脛骨を切って角度を変えることで、O脚変形のために内側に偏った荷重を外側に移動させる(矯正させる)手術です(図で示すのは、内側開大式の骨切り術です)。脚の形はO脚からX脚に変わります。膝の内側にかかっていた負担を軽減させることで、膝の痛みが改善されることを目標とした手術です。すり減ってしまった関節軟骨や骨壊死で傷んだ軟骨が修復されることも期待でき、自分の関節が温存できるため、術後の日常生活にほとんど制限がありません。
手術後、1週間程度してから荷重をかける訓練を行い、1カ月程度で通常歩行を目指したリハビリを行います。骨を切る手術のため、骨が癒合する(骨ができる)までは骨切り周囲の痛みが続くことがありますが、手術後6カ月程度で骨癒合が確認されれば、スポーツ活動などに復帰することができます。骨癒合が完全に得られる術後1年を目途に、使用したインプラントを抜去することが多いです。
スポーツを嗜む人の割合は年々増加傾向にあり、2020年のスポーツ庁の調査では、成人の週1日以上のスポーツ実施率は59.9%という結果でした。多くの方が何かしらのスポーツを嗜んでおり、競技スポーツだけではなく、健康・体力の保持増進を目的に運動されている方も多くおられます。
スポーツ医学は、このようなスポーツ愛好家や競技アスリートも含めて、スポーツを行う方を様々な形でサポートする医学です。その分野は多岐に渡り、究極的にはスポーツ活動を行う人々の健康を追求するのがスポーツ医学と考えられています。
大阪大学整形外科スポーツクリニックでは、「スポーツ外傷や障害の予防・治療・リハビリテーション」を中心に研究や診療を行い、日常生活のみならず競技生活への早期復帰をサポートします。
スポーツクリニックでは、スポーツ活動中に生じる外傷(=けが)や障害(=オーバーユース、使いすぎ)に対する治療を行っています。
スポーツ外傷・障害を治療する上で、適切な手術や保存加療はもちろんのこと、リハビリや予防指導によって再発を防ぐことも重要です。そのために私たちは理学療法士や作業療法士と綿密に連携を取り、受傷前の競技レベルに戻れるように治療にあたります。また、研究で得られた知見に基づいて、再発予防のためのリハビリメニューを組んだり、外来診察で予防の指導などを行ったりしています。
スポーツクリニックでは、スポーツ外傷・障害に関わる研究を行っています。これらの研究に基づき、質の高い手術や、再生医療を提供することを心がけています。
スポーツクリニックでは、病院外のスポーツ現場においても、アスリートのサポートを行なっています。スポーツチームに帯同してアスリートのコンディショニングの維持・管理を行なったり、競技大会が安全に運営できるように医学的なバックアップを行なったりと、その内容は様々です。
多種の競技団体と連携協定を結んで、スポーツ現場での医事活動を行っています。以下は一例です。
また、チームの帯同ドクターとして活動する医師もいます。以下は一例です。