田中 誠人 先生

平成9年入局
第二大阪警察病院 スポーツ医学センター センター長

1997年卒の田中誠人です。

現在は第二大阪警察病院というところで肩関節外科を専門としながらスポーツ整形にも従事しています。

筋金入りのラグビー好き

大学入学時に先輩に誘われてラグビーボールを持った瞬間にラグビーの魅力にはまってしまってから、ラグビーとは縁の切れない人生を歩んできました。

大学に行けばまず授業に出る前(授業中だったかもしれません)に筋トレをして、引率力のある先輩方と切れ者揃いの同期、強者揃いの後輩達のおかげで、関西医歯薬3連覇、西医体優勝1度と充実した大学生活を送れました。大学4年の時は基礎配属を1か月休ませてもらい、イングランドにスパイクを持って渡り、掲示板で練習を見つけて参加したらオックスフォードのクイーンズカレッジの一員として試合に出させてもらいました。英語は今でも苦手ですがラグビー中は全部わかるという不思議な状態でした。整形外科の入局は、大学のときに指導を受けた御所工業高校(現御所実業高校)の竹田寛之監督に「整形外科に行ってよ」と言われて決めました。ちなみに御所との試合では大学生のくせに高校生にケチョンケチョンにやられていました。大学院後の留学も当然ながらラグビーのあるオーストラリアを選ばせてもらいました。クラブチームに入って2度ほど試合に出ましたが、怪我をしたときの補償が全くない状況だったので家族のためにやめました。帰国後から学び始めた肩関節外科のおかげでより一層ラグビーとの関わりを深めることができています。

写真1 | 大学時代にイングランドでラグビーした際の写真

ラグビーのチームドクター

整形外科入局を後押ししてくださった竹田監督の依頼があり、御所実業高校校のチームドクターをまずは始めました。毎週末のように強豪校が集まって練習試合をするので、そこで知り合った大阪、京都、兵庫、奈良のラグビー超有名強豪高校の監督さん達から何か肩の怪我があればすぐに直接連絡がきて、選手の状況を考えながら監督と相談して治療方針を決定しています。高校生をスカウトに来る大学ラグビー部の関係者とも多数知り合いになり、今は近畿大学と関西大学のチームドクターもしています。その他関西のラグビー強豪大学3校は何か肩の怪我があるとトレーナーから連絡が入って治療にあたっています。幸運なことに阪大整形の先輩方が培われてきた信頼関係のおかげで、大阪にある二つのトップリーグの選手も肩の不調に関しては受診していただけるようになり、関西でラグビー選手を一番たくさん診させていただいていると感謝しています。故障の連絡はだいたいが週末に連絡があるので、週明けの月曜日に診察できるようにMRIの枠の確保などで同僚のお力添えを頂いています。

この他には2016年と17年の2年間はスーパーラグビー サンウルブズのチームドクターを、2018年からは7人制ラグビー日本代表のチームドクターをさせて頂いています。代表クラスのチームと高校、大学で大きく違うのは海外遠征です。サンウルブズでは南アフリカに3回、オーストラリア2回、シンガポールへは忘れるくらい帯同しました。7人制ではアメリカやカナダ、韓国などいろいろな国に帯同させて頂いていますし、東京オリンピックのサポートもすることになっています。遠征時は気軽に病院受診ができませんので、受傷機転を考え、正確に理学所見をとること、エコーを駆使することがとても大切となります。トップ選手を各チームから預かって代表チームは結成されていますので、いい加減な判断はできませんし、治療方針の決定やチームへの報告には神経をすり減らされます。また遠征前には時差ぼけ解消や現地での感染症についての情報など普通では考えなくても良いようなことまで準備しておかなくてはなりません。昨年にいたってはCOVID-19について選手たちに講義をしなければならず、必死に勉強しました。楽しいというよりも大変なことが多いですが、テレビでしか見られないような選手、コーチ達と普通に会話したり、食事を一緒にしたり、かけがえのない経験ができました。今でもどこかの試合会場で気兼ねなく声をかけてくれるなど嬉しいこともたくさんあります。

写真2 | サンウルブズの初勝利を、秩父宮のピッチ上で選手とともに喜ぶ
写真3 | シンガポール帯同時、ホテルの一室がメディカルルームに
写真4 | トップリーグのマッチドクター(自前のエコーで診断)

医務委員としての活動

この文章を読んでくださっている方々に興味を持って頂くために華々しいことも書きましたがが、トッププレーヤーが華麗にプレーできるのも幼稚園児や小学生から中学、高校、大学とそれを下支えしている多くのプレーヤーと関係者がおられるからです。ピラミッドの土台がしっかりしていないとその競技は廃れていく。その信念を持って大阪府ラグビーフットボール協会の医務委員として大会運営をサポートしています。実際に何をしているかというとスクールや中学、高校の試合のマッチドクターとして出務したり、脳振盪やドーピングなど専門外のこともしっかり判断できるように講習会を受講したり、資格を取って講習会を催したりなどしています。チームドクターの仕事と会わせるとほとんど週末はどこかのグラウンドに足を運んでいることになります。昨年からは医務委員長を拝命してしまったので、出務のみならずその出務の依頼受付、案内、調整をしたり、ラグビー協会自体の理事会に出席したりなど、通常業務に加えてかなりの事務仕事の雑務が増えて大変ではありますがやりがいを持って従事させて頂いています。

スポーツドクターを目指す先生方へ

スポーツドクターとして医学的な知識、技術が必要なことは言うまでもありませんが、一番大切なことは現場に出ることだと思っています。診察室で診る選手と、ピッチ上で見る選手は全然違います。選手が診察室では問題ないと言っていても、期待していたプレーができていないこともありますし、コーチ陣からいろいろな意見をもらったりして、スポーツ現場で学ぶことがたくさんあります。社会生活の基本である清々しい挨拶もその一つでした。そして何より、自分が治療した選手が大活躍しているとても嬉しい。大活躍じゃなくてもバシッとタックルを決めてくれるとめちゃくちゃ嬉しい。どんなにしんどくてもやめられません。

現在、いろいろなスポーツで女性アスリートがどんどん増えています。ラグビーも2016年のリオデジャネイロオリンピックから正式種目に選ばれてからは急激にラガール(ラグビーガールからの造語)の人口が増え、また社会人でも競技を続けられる環境が整ってきています。外傷については整形外科医として治療やアドバイスができますが、やはり男性ではわかりかねることも多いので積極的に女性のスポーツドクターにも関わっていってもらいたいと思います。チームに関わることもできますし、大会ドクターとして関わるなど、やることはたくさんあります。

整形外科医としての実力をつけながら、スポーツドクターとしての経験を積んでいくことがとても大切です。男女を問わず、そんなスポーツ好きのドクター達に活躍の場を提供し、かつ実際に活躍できるような医師として成長させてくれる環境が大阪大学整形外科には間違いなくあります。