河村 禎人 先生

平成元年入局
整形外科河村医院

フィールドワーク

大阪大学整形外科では、少なからずのスポーツドクターが週末活動としてスポーツ現場でのフィールドワークに参加しています。好きなスポーツに携わりながら選手や大会の成功の一助となることは、通常診療とは異なる充実感を得ることも多く、やりがいを感じる場面も少なくありません。

フィールドワークにおいては医療機関での診療とは異なる役割分担があります。選手の傷害対応や健康管理を行うのみでなく、例えばチームドクターは、それらを通じて指揮官である監督のもとでチームの勝利に貢献することを求められますし、大会運営に携わるドクターであれば、主催者の方針に従って大会の成功に寄与することを求められます。医療機関内では医療チームのリーダーであっても、フィールドワークではチームの一員として専門的役割を求められることが多く、医学的知識のみならず状況判断や調整能力も必要とされます。その立場によって、どのような役割が求められているのかを正しく理解しておくことが重要となります。

阪大整形外科には、スポーツ支援に関わる多くの実績があります。越智隆弘名誉教授は永年にわたり高野連や阪神タイガースとの協力のもとに野球の医学的支援に尽力をされていますし、中田研教授は日本のテニス界で中心的な立場で、前田朗先生(昭和62年入局)は2019ラグビーワールドカップを担当されるなど、スポーツ界で中心的な役割を担われている先生方が多くおられます。ここでは、私が携わってきたサッカーとゴルフのフィールドワークについての一例をご紹介します。

サッカー

大阪府サッカー協会にスポーツ医学委員会が設立されたのは、1991年のJリーグ発足の年で、木下裕光先生(平成6年入局)を中心に在阪医学部5大学から医局の垣根を越えて広く委員を募りスタートしました。当時は委員会を名目にグランドを借りて試合をして、その後の懇親会では熱くサッカー論をぶつけあう同好の士の集団でした。現在ではメンバーも増えて、90名を超える委員を擁する47都道府県協会の中でも有数のスポーツ医学委員会となっています。FIFAワールドカップ日韓大会やFIFAクラブワールドカップなどの大きな国際大会から小学生のキッズイベントまで広くサポートの実績があり、現在では年間70を越える試合やイベントのメディカルサポートを提供しています。また、ドーピング活動にも携わっていて、複数の委員が日本サッカー協会のNF repとして出務していますし、その他に国体代表チームのチームドクターや海外遠征の帯同など、サッカー好きの医師にとっては、楽しみつつサポートができる良い機会となっています。委員の構成は特定の医局に偏らず広く募っていますが、委員会の設立の経緯から、初代の木下から河村、天野大(平成13年入局)と、歴代の委員長を阪大整形外科所属者が担当しており、多くの同門の先生方がサッカードクターとして中心的な立場で活躍されています。

ゴルフ

ゴルフは、リオ大会からオリンピックの正式種目として復活したメジャースポーツですが、日本においてはレジャーや社交としての位置づけがなされてきた歴史的経緯もあり、スポーツ医学の対象としては他のメジャースポーツに比べて周回遅れの印象があります。ゴルフを楽しむ医師は多いのですが、ゴルフ医学に取り組むゴルフドクターはあまり見かけません。阪大整形外科では、中村憲正先生(昭和63年入局)と河村が日本ゴルフ協会の医科学委員としてゴルフ医学に携わっていますし、関連教室である阪大スポーツ医学教室では、国立スポーツ医学研究所との共同研究としてスポーツ庁の委託研究を受託してゴルフスイングと障害についての研究を行っている他、阪大神経内科教室と共同でイップスについての研究などを行っています。また、本稿執筆時点では東京オリンピック開催の状況は流動的ですが、オリンピックのゴルフ競技の選手医療統括者として従事するほか、医局所属の複数の若手ドクターがオリンピックメディカルスタッフとして出務を予定しています。

スポーツドクターの資質

スポーツのフィールドワークには、「オリンピック」「ワールドカップ」「プロリーグ」など華やかなイメージが先行しがちですが、実際には調整や準備などの地味な業務が中心ですし、選手やチームとの信頼関係の構築には地道な努力が求められます。その一方で一旦信頼関係が構築されると、病院での診療とは異なる役割とその成果を実感することができ、本業としての医療にも良い影響が及ぶことも少なくありません。フィールドワークで活躍する優れたスポーツドクターは、病院においても一流の専門医であることが多く、自らの専門分野に精通し専門医としての能力を身につけた上で、週末活動としてのフィールドワークに携わるのが本筋かと思います。そういう意味では、大阪大学整形外科教室は、優秀な指導医と数多くの優れた研修病院を有しており十分な研修が行えると同時に、スポーツ医としての活躍の機会も少なくなく、良好な研修環境が提供されるものと考えています。将来のスポーツ界を支えるスポーツドクターを目指す諸君の入局を期待します。